船長の権限には、公法上の権限と私法上の権限とがありますが、前者は商法の範囲に属さないから、ここでは後者について述べます。
船長の私法上の権限には、まず、船主のための代理権があります。
この代理権の範囲は、船籍港(船舶の登記された地で、原則として船主の住所地)内では狭く、船主から特に委任を受けた場合のほかは、海員船長以外の船員)を雇い入れまたは解雇することだけに制限されています。
これに対し、船主の指揮の及ばない船籍港外では、船長の権限ははなはだ広範で、航海のために必要な一切の裁判上または裁判外の行為をすることができます。
したがって、船長は、船主を代理して訴訟をすることができるほか、海員の雇入れ・解雇はもちろん、船舶を抵当に入れ、借財をなし、あるいは積荷(船主のものではないが)を処分するすることもでき、修繕不能になった船舶を売却することさえもできます。
また船長は、積荷の利害関係者のためにも、航海中危険に遭遇した積荷を最も有利な方法で処分する権限を有しています。
なお、以上の船長の代理権の範囲は、これを内部で制限しても、善意の第3者には対抗できないものとされています。
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