原状回復の内容
借主には、賃貸借契約終了の際、その物件をもとの状態に戻してから、貸主に返還すべき義務があり,これを「原状回復義務」といいます。
しかし、貸主は建物を貸すことで家賃収入を得ていますので、明け渡しのときにすべて新品にして返還されるのであれば、貸主はそれだけ不当に利益を得ることになります。
そこで原則として、「通常使用による損耗」については、修繕費用を請求する権利はないのですが、故意・過失による損耗の回復に限っては請求が可能です。
特約は有効か?
「借主は、故意過失を問わず、建物の毀損・滅失・汚損その他の損害につき損害賠償をしなければならない」という特約がある場合はどうでしょう。
この場合、貸主は「通常生活による損耗」についての修繕費用負担を借主に請求できるのでしょうか。
この点について、最近の裁判例では質問のような特約がある場合でも「ここでいう損害には、賃貸物の通常の使用により生じる損耗は含まれない」と、特約の効力を限定的に解釈したり(名古屋地裁/平成2年10月19日判決)、特約自体の有効性を否定したりしています。
つまり、「通常生活による損耗」は、やはり貸主が負担すべきとする傾向にあります。
そのため、特約があっても、原則として「通常生活による損耗」について借主側が修繕する必要はないと考えられます。
したがって、借主が普通に生活をしている限りクロスやカーペットを新品にしての返還請求をすることはできません。
判例の流れ
① 特約の必要性があり、暴利的でないという客観的で合理的な理由が存在すること
② 通常の原状回復義務を超えた修繕義務を負うことを借主が特約から認識していること
③ 借主が特約による義務を負担すると意思表示をしている
以上の3つの要件が必要であるとしています(伏見簡裁/平成7年7月18日判決)。
これらを一つずつ具体的に見ていくと、以下のようなことが必要になります。
①では、物件が周辺の家賃相場と比べて明らかに安いため修繕費用くらいは借主に負担してもらう必要があること、また、修繕の範囲や費用が妥当で、特に暴利的ではないこと。
②では、「通常使用による損耗」の修繕費用は借主が負担する必要はないという原則があるが、この契約では例外的に負担することになっている、と契約者本人に理解させること。
③では、将来借主の負担を予想させる修繕費用がどの程度になるのか、工事項目、工事内容、工事項目ごとの概算費用を具体的に明示しておくこと。
もし、このうちのどれかが欠ければ、貸主は借主に「通常使用による損耗」の修繕費を請求できなくなります。