敷金返還と原状回復の特約
通常損耗でも特約によって原状回復義務を負うことがあります。
その場合敷金は返還されるどころか、追加金を請求される場合もあります。
原状回復の特約について
賃貸借契約については、強行法規に反しないものであれば、特約を設けることは契約自由の原則から認められます。一般的な原状回復義務を超えた一定の修繕等の義務を賃借人に負わせることも可能ということです。
しかし、判例等においては、一定範囲の修繕(小修繕)を賃借人負担とする旨の特約は、単に賃貸人の修繕義務を免除する意味しか有しないとされており、経年変化や通常損耗に対する修繕業務等を賃借人に負担させる特約は、賃借人に法律上、社会通念上の義務とは別個の新たな義務を課すことになるため、次の要件を満たしていなければ効力はありません。
賃借人に特別の負担を課す特約の要件
①特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること。
②賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること。
③賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること。
このように、賃借人が通常損耗でも原状回復費用を負担することもできますので、賃貸借契約にそのような記載がある場合、知らなかったとは言えなくなります。
最高裁判例では、「建物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費を賃料の中に含ませていてその支払いを受けることにより行われている。そうすると、建物の賃借人に賃貸借において生ずる通常損耗及び経年変化についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人に同義務が認められるためには、少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗及び経年変化の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の通常損耗補修特約が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である」との判断が示されている。
また、消費者契約法では、その第9条1項1号で「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額の予定」等について、「平均的な損害の額を超えるもの」はその超える部分で無効であること、同法10条で「民法、商法」等による場合に比し、「消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする」と規定されている。
したがって、仮に原状回復についての特約を設ける場合は、その旨を明確に契約書面に定めた上で、賃借人の十分な認識と了解をもって契約することが必要である。
また、客観性や必要性についてでは、例えば、家賃を周辺相場に比較して明らかに安価に設定する代わりに、こうした義務を賃借人に課すような場合が考えられるが、限定的なものと解すべきである。
なお、金銭の支出を伴う義務負担の特約である以上、賃借人が義務負担の意志表示をしているとの事実を支えるものとして、特約事項となっていて、将来賃借人が負担することになるであろう原状回復の費用がどの程度のものになるか、単価等を明示しておくことが重要になる。
なんだかんだ言っても結局は、契約書に退去時の原状回復義務があるかどうかをきちんと確認することが重要です。
今日のじじ
視線の先に何がいるんですかね?
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