占有訴権とは、「占有回収の訴え」、「占有保持の訴え」、そして「占有保全の訴え」の3つの権利の総称です。
これらの権利はいずれも、占有権に基づいて成立する物権的請求権(物上請求権)の一種に数えられます。
占有者が占有を自己の意思に基づかずに全面的に奪われたとき(盗まれたときなど)は、占有者は占有の回復と損害賠償を請求できる権利(占有回収の訴え)を有します。
ただし、占有が善意の特定承継人(直接の侵奪者からの買主など)に既に移転したときは、もはやその者に対して占有の回復を請求できません。
また、この権利は侵奪のときから1年以内に行使しなければなりません。
占有を部分的に妨害されているとき(台風で隣家の大木が自分の占有する庭先に倒れてきたときなど)は、占有者は妨害者に対し妨害の除去と損害賠償を請求し得る権利(占有保持の訴え)を有します。
ただし、この権利は妨害の存する間またはその止んだ後1年以内に行使しなければならず、また、損害賠償は相手方に故意または過失があるときのみ請求できます(判例・通説)。
占有に対する妨害が発生する危険が存するとき(隣地の石垣が崩壊しそうなときなど)は、占有者は将来に向けて妨害予防の措置または損害賠償の担保を請求できる権利(占有保全の訴え)を有します。
この権利は、危険が存する間はいつでも行使できます。
占有訴権制度の目的が何かについては諸説がありますが、通説は、これを自力救済(じりょくきゅうさい)の禁止に求めます。
現にある支配状態が仮に法的に許容されない場合であっても、これを司法を介さずに私人によって除去しようとするのは、法治国家の建前上許されないので、一時的であれ現にある事実状態を維持する、という点にこの制度の存在意義があるとしています。
いずれにせよ、占有訴権に関する裁判は、本権に関する裁判とは無関係であり、また、占有訴権の裁判では本権の所在を問題にすべきではないとされています。
例えば、現に占有する所有者のAさんがBさんに占有を奪われたときは、Aさんは占有回収の訴えを行使することも、所有権に基づく物権的請求権を行使することもでき、仮に前者に敗訴しても、後者によって改めて裁判を受けることができます。
また、例えば権利を有しないAさんの占有を所有者Bさんが奪い取ったときは、Aさんは占有回収の訴えを行使でき、この場合真の所有権がどちらにあるかは問われません(Bさんが自己に所有権があると主張しても、Aさんの請求を拒否することができません)。
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