訴訟において原告の訴訟物である債権を被告の有する反対債権をもって被告が相殺をするという主張のことをいいます。
多くの場合は、被告が、「もし、原告の債権が存在するならば、これを自己の反対債権で相殺する」
というのが普通です(これを予備的相殺の抗弁といいます)。
例えば、売買代金請求訴訟で、被告はまず、その売買契約それ自体を争い、あるいは弁済したことを主張し、それが認められないためになお、原告の代金債権が存在するならば、自分の持っている反対債権で相殺するというのであります。
だから裁判所も被告の他の主張の取調べを終わってからはじめてこれを取り上げなければなりません。
相殺の抗弁の法的性質については争われています。
これを純然たる訴訟行為とみる立場も有力であるが、多数説・判例は私法行為と訴訟行為が併存しているとみる併存説(あるいは両性説)をとっています。
また、抗弁については、原則として既判力は生じないのであるが、相殺の抗弁についてだけは例外的に相殺を対抗した額についてだけは既判力を生じます。
それというのも、これに既判力を認めないと、せっかく相殺の抗弁を排斥しても、今度、その反対債権の存在を主張して、もう一度、その債権について訴訟が開始されるからです。
だから相殺の抗弁を排斥した場合は、反対債権の不存在が既判力をもって確定され、相殺の抗弁を認容して請求を棄却した場合には、多数説によれば、相殺で対抗した額の限度で受働債権と自働債権とがともに存在し、それが相殺によって消滅したことが確定されます。
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